![]()
![]()
|
もし、自分の家に見たこともない人が居着いてしまったらどうするか。相手には縁もゆかりない。訪問も突然だ。こちらには誰かを養うだけのよゆうはない。申し訳ないが当然、お引き取りを願うだろう。こういう相手も住ませてやって、食事の面倒までみてやっているのが千年の森の杉だ。ちゃっかり居候をきめこむのはヤマグルマという木である。 だが本来、ヤマグルマは締め枯らし植物ではない。この森以外では林床で芽生え、独立した木として成長する。千年の森の杉はよほど居心地がいいのだろう。 |
![]() |
![]() |
千年の森の杉はほかで見るよりはるかに枝の数が少ない。毎年のように襲ってくる台風のせいで折られたこともあるが、多くの葉をつけないことで必要とするエネルギー量を減少させる。少ない養分のため、自らは節制し清貧に生きながら、着生した木々を養っているのである。ある木は可憐な花をつけ、ある木は実をつける。紅葉する木もあり、着生木は杉に豊かな彩りを添えている。マザー・ツリーのような一本の杉の上はまた、ひとつの森だ。暗い杉の森の林床では発芽しにくい木々たちは、日のあたる高い場所に住まいを得て、いのちをつなぐ。この生存方法に一役かっているのが、千年の森に降る多くの雨である。 ぼくは雨の中に立ちながら、木上の森を歩いているのを想像した。コケが土の代わりとなり、杉が母なる大地となった森。その森には共に生きるというルールがある。 |
![]() |
誰もがそのルールを静かに守っている。だからこそ、毎年の実りと成長がある。雨がやんだら、この森の天空にもきっと小さな虹がかかるだろう。地上の大きな森と空中の小さな森。そのすべての中に生命があふれている。大きな森の中ではぼくもたくさんの生命の中のひとつにすぎない。 《文.蟹江節子》 |
| 第五章へ |